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2020/02/19

曲目解説

創立記念演奏会 プログラムノート

A.ボロディン/交響曲第2番 ロ短調

ロシアの作曲家アレクサンドル・ボロディンは、医学・化学者として優秀な業績を残しながら「日曜作曲家」として活動し、教授や侯爵の私生児そして愛妻家の顔を持つなど、とにかくハイスペックな人です。
ボロディンがいた当時、ロシア音楽は西欧的か民族的かで二分化されていました。例えば、チャイコフスキーは西欧的であり、ロシア民謡を用いつつロシア音楽の西欧音楽化を目指しました。一方で、ムソルグスキーは民族的であり、ロシア人によるロシア魂を民衆の音楽にすることを目指しました。ボロディンはムソルグスキーの理念に賛同し、リムスキー=コルサコフ、キュイ、バラキレフを合わせた「ロシア五人組」の1人として活動するようになったのです。
交響曲第1番を作り終えたボロディンは『イーゴリ公軍記』を題材にオペラに取り掛かりますが、大学教授、女子医学学校の創設など多忙のため、なかなか音楽を作る時間を確保できませんでした。また、このイメージを音楽化する場合、オペラよりも四楽章の交響曲の方が適していると感じたボロディンはオペラ作りを中断し、1873年に交響曲第2番を完成させました。

アレクサンドル・ボロディン
アレクサンドル・ボロディン
(1833-1887)

ボロディンの交響曲第2番の初演は、1877年2月14日(旧ロシア暦では2日)にサンクトペテルブルクで、エドゥアルド・ナープラヴニーの指揮で行われました。曲作りに海軍省吹奏楽団の監督だったリムスキー=コルサコフも関わっていたこと、そしてボロディンがフルートとオーボエ、チェロを巧みに演奏することができたことによって、オーケストレーションは非常に説得力のあるものになりました。しかし、吹奏楽団の体育会系ノリで金管楽器を書いてしまい、初演は失敗。その後手直しし、1879年にリムスキー=コルサコフの指揮で改訂版が再演されると、今度は成功を収めました。
この曲は『イーゴリ軍記』が基になった1番のロシア的交響曲であり、ロシア民謡、優美なロシア舞曲、英雄叙事詩のような力強さが表現されています。また、曲調から「ライオン交響曲」「英雄交響曲」「勇者交響曲」と呼ばれ、好評でした。ロシア音楽を代表する素晴らしい名曲です。ロシア祖国の歴史、英雄的な過去、民間伝承、英雄叙事詩の世界観を、そしてボロディンの熱い魂を感じてください。

第1楽章 Allegro
第1主題/主部:「熱狂」。力強い英雄の様子やロシア民族の飾らない厳しい風貌が表現されています。木管楽器の魂の旋律、吠える金管楽器!
第2主題/副部:「郷愁」。ロシア民謡風旋律や平和や栄光。オーボエ、フルート、クラリネットに続く甘いメロディ。途中に出てくるティンパニのギャロップのリズムが戦いを表現します、かっこいい。主部と副部の性格の差がなくなり、ロシアの民衆の力強さや不屈さを増していきます。クライマックスには冒頭の旋律が繰り返され、次の物語へ。

第2楽章 Scherzo
スケルツォ/第1主題:「熱狂」。抑えられないほどの広大な自然の力が表現され、躍動的。金管楽器のハーモニーから始まり、弦楽器のピッツ、木管楽器の刻みへとなめらかにつながります。
スケルツォ/第2主題:「熱狂」。風や馬が大地を駆けていくような様子や大胆さがあり、激情的。
トリオ:「異国的・郷愁」。トライアングルが鳴り響くと、木管楽器が奏でる夢の世界へ。自然の優しさや安らぎを感じるような、東洋的で優雅なテーマ。やがてスケルツォが戻り、英雄、馬の躍動が過ぎ去ると、管楽器のハーモニーが優しく終わりを告げます。

第3楽章 Andante
「郷愁」。「その未来を予言する指を聖なるグースリの弦に当てれば、弦は自ずと諸公を称える歌を奏でる」(『イーゴリ軍記』より)。ハープのアルペジオに乗ってクラリネットが古いロシアの旋律を奏で、それに応えるように、ホルンが吟遊詩人の歌を歌う。ロシアの人々の故郷を思う気持ちが映し出されています。

第4楽章 Finale
第1主題:「熱狂・異国風」。3楽章から切れ目なく4楽章へ。低音楽器のシンコペーションに乗って、「韃靼人の踊り」を思わせるような第1主題が流れる。勝利の大宴会で人々は酒を飲み、踊り狂う。
第2主題:「郷愁・熱狂」。クラリネットの東洋的な旋律は、優雅な踊り子の舞。トロンボーンセクションの重厚感溢れるファンファーレ。この楽章のみ登場する打楽器もいて、熱狂的なお祭り騒ぎ。1楽章同様、2つの主題を融合することでロシア民族の力強さが表され、熱狂的なクライマックスを迎えます。

この交響曲の中では、ジャレイカ、グースリ、バラライカと言ったロシアの民族楽器をオーケストラの音で巧みに表現しています。一度聞いたら忘れられないけたたましい音色、ジャレイカ。異国的でありながら、どこか懐かしさを感じるグースリ。そして、素朴で安らぎを与えてくれるバラライカ。曲を聞きながら、想像してみてください。

[参考文献]
・フィアールカ管弦楽団演奏会に向けて 「ロシア音楽におけるボロディンとグラズノフ」 / 服部洋樹(2019)
・検索キーワード付 クラシック作曲家事典 / 渡辺和彦 / 学習研究社(2007)
・クラシック名曲1000聴きどころ徹底ガイド / 宮田菊俊 / 音楽出版社(2005)
・音楽家 409人の肖像画 4 19世紀 / ガブリエーレ・ザルメン / 音楽之友社(1988)

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