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2021/09/19

曲目解説

第2回演奏会 プログラムノート

A.グラズノフ/バレエ音楽「四季」 op.67

バレエ音楽『四季』は、帝政ロシア末期の作曲家であり、優れた音楽教育家としても名高い、アレクサンドル・コンスタンティノヴィチ・グラズノフ(1865-1936)が作曲したプロットレス・バレエ(物語としての筋書きを持たないバレエ(抽象バレエとも言う)です。初演は 1900年にサンクトペテルブルグのエルミタージュ劇場で行われました。作曲を依頼したのはマリウス・プティパ。チャイコフスキー3大バレエ誕生の立役者であり、ロシアにおける当代一の舞踏家及び振付師であった彼と、作曲家として正に成熟期にあったグラズノフのコンビネーションは大変良い成果をもたらし、挑戦的な演目であるにもかかわらず、初演時から非常に好意的に受け入れられました。
『四季』は創作されたストーリーを持ちません。その代わり、誰もが生まれた時から知っている大いなる宇宙のストーリー、即ち「季節の移り変わり」が作品の軸となって舞台を動かします。 物語に登場するのは人間ではなく、各季節を象徴する自然現象(雪や霜、風、花々など)や妖精たち(水の精、森の精など)です。擬人化された各季節の要素は巧みに絡み合いながら舞台上を絵画のように彩り、展開してゆきます。

アレクサンドル・グラズノフ
アレクサンドル・グラズノフ
(1865-1936)

前奏曲
冬のロシアを思わせる、暗くピンと張り詰めた曲調で幕が開きます。弦楽器がつむじ風のように 下降した後、広がるのは雪と氷の世界。冷たく、しかしどこか懐かしさを覚えるような旋律が木管 楽器で奏されます。しかし弦楽器を中心とした響きによって「油断するな」と警告するかのようなフレーズが繰り返され、その後ティンパニ、金管楽器の響きと共に大きな嵐が訪れます。

第1場「冬」
情景:フ前奏曲の終盤において嵐が遠ざかると、第1場の情景となります。フルートが活躍し、こぼれ落ちる氷のように美しく寂しさを帯びた旋律を奏します。その後再び小さな嵐が訪れ、余韻を残しつつヴァリアシオンに進みます。
第1ヴァリアシオン:霜(しも):ヴァリアシオンとは、バレエにおけるソロの踊りを表す用語です。舞台には霜の精が現れ、ポロネーズ風の弾むような旋律に合わせて踊ります。
第2ヴァリアシオン:氷:氷の精の踊りとなります。クラリネットとヴィオラが穏やかで優しいメロディーを奏で、チェレスタが煌めきを添えます。ロシアでは「氷」に対してこの様な温かいイメージを持つこともあるのだな...、と感じさせられる1曲です。
第3ヴァリアシオン 霰(あられ):オーボエや太鼓による小気味よい前奏リズムに合わせて飛び出してくるのは霰の精です。クラリネットやファゴットによるユーモラスな音楽にホルン、トランペット、弦楽器も加わり、曲の終わりまでスピードを緩めることなく一気に駆け抜けます。
第4ヴァリアシオン 雪:続いて現れるのは雪の精です。ふわふわと雪が舞い落ちてくるような幸せなワルツからはロシアの冬の楽しさが伝わって来るようです。
終曲:第1場の冒頭で奏された「情景」の音楽が再び現れます。曲の終盤ではハープが大きく豊かにグリッサンドし、その響きに導かれるように春が訪れます。

第2場「春」
a. 情景:フルートの奏する軽やかな旋律と共に、舞台に春が訪れます。
b. バラの踊り:弦楽器とハープによる伴奏の上で、心地よいクラリネットの音色が、まるで柔らかく開いた薔薇の香りのように広がります。フルートに受け継がれた旋律は続くホルンとチェロによって一層深く情感豊かに繰り返され、木管楽器に引き継がれた後、弦楽器によって朗々と歌い上げられます。
c. 小鳥の踊り:弾むような 6/8 拍子のリズム。楽しげな小鳥のさえずりや羽ばたきが聴こえて来るようです。

第3場「夏」
a. 情景:舞台に金管楽器の響きが豊かに満ちて、夏の訪れとなります。時折轟くティンパニの響きを従えながら、弦楽器が生の喜びに満ちた旋律を力強く奏でます。
b. 矢車菊とケシのワルツ:軽やかな明るいワルツです。翳りのない陽気な曲調は、短い夏に全力で咲き誇る花々の生命力に満ちているかのようです。
c. 舟唄:舞台には水の精が現れます。ハープの滑らかな伴奏に乗って、弦楽器がたゆたうような旋律を奏でます。
d. ヴァリアシオン:トウモロコシの精の踊り:8クラリネットが軽やかにのびのびと歌います。夏の香りをまとって豊かに実ったトウモロコシの精の誇らしい様子が目に見えるかのようです。
e.コーダ:舞台には夏の妖精たちが再び登場し、入り乱れて踊ります。

第4場「秋」
a. バッカナール:バッカナールとは、古代ギリシアに起源する、酒と収穫の神ディオニュソス (バッカス) を祀る祝祭を意味します。賑やかな音楽に乗って、舞台上にはバッカスの巫女達が現れ、続いて「冬」が霰を、「春」がそよ風を、「夏」が矢車菊とケシのワルツを従えて登場します。それぞれに合わせてこれまで各場面で演奏された音楽が再現されます。
b. 小アダージョ:舞台上は動きを止め、イングリッシュホルンとヴィオラがハープの奏でる柔らかな伴奏の上で優しく慰めに満ちた旋律を奏します。旋律は様々な楽器に受け継がれてゆき、胸に染みるような感動のもと、静かにそっと終わりを告げます。
c. ヴァリアシオン:サテュロス:笛や打楽器の音に誘われるように、舞台上には半獣半人の精霊、サティロス(牧神)が現れます。牧神は妖しげな響きを背景に女性を口説いて回ります。
d. バッカスの礼賛:再び祝祭の音楽となります。舞台上には夏の精らも現れ、実りの喜びに満ちた、輝くようなクライマックスを迎えます。しかしその瞬間、「冬」の訪れを告げるつむじ風が吹き荒れます。
アポテオーズ:舞台上は暗くなり、星が煌めきます。囁くようなピアニッシモで祝祭のテーマが繰り返され、充ち足りた舞台の余韻と共にフィナーレを迎えます。

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