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2022/10/10

曲目解説

第3回演奏会 プログラムノート

A.グラズノフ/交響曲第5番変ロ長調 Op.55

グラズノフはロシアを代表する作曲家の1人で、幼少の頃から驚くべき音楽的才能を発揮し周囲を驚かせました。「ロシア五人組」(バラキレフ、キュイ、ムソルグスキー、ボロディン、リムスキー=コルサコフ)との出会いを経て作曲家としての才能も開花させ、特に師匠であるリムスキー=コルサコフとは生涯の友人となりました。リムスキー=コルサコフからグラズノフへサンクトペテルブルク音楽院の院長を受け継いだということもあり、2人の音楽の親和性の高さが伺えます。

交響曲第5番変ロ長調 作品55は、当団の根幹とも言える「四季」と同じくグラズノフの創作が開花したとされる1890年代に作曲され、彼の師匠であるピアニストのセルゲイ・タネーエフに献呈されました。グラズノフの音楽はヨーロッパ音楽(1830~1890のロマン派)とロシア民族音楽が融合したもので、ロマン派的作品でありながら、ロシアのノスタルジックな民族性が感じられます。特にこの交響曲第5番は個性と技巧が際立ち、彼の芸術の中でも最も人気な曲の1つとなっています。全体として明るい主想と瑞々しい生命力が感じられ、「ワグネリアン(ワーグナーに心酔している)」「英雄的」と言われています。また、グラズノフ自身はこの作品を「沈黙の響き」「詩の建築」と評しています。

第1楽章 Moderato maestoso - Allegro
ブラームス風の重厚で勇壮な音楽。中低音楽器の堂々たる序奏はロシアの雄大な大地を思わせる響きで、この作品の風格を暗示しています。冒頭の音型を素材として各楽章に用いることで、全体の構築性を強固にしています。やがて木管楽器の美しい旋律が現れたかと思えば可憐なメロディと重厚なメロディが交互に演奏され、最後は金管楽器のファンファーレと共に華麗に終わります。

第2楽章 Scherzo. Moderato
メンデルスゾーン風の軽やかなスケルツォ(イタリア語で「冗談」という意味で、ユーモアのある器楽曲)。木管楽器の星が瞬くような細かな動きにトライアングルが爽やかに響きます。やがてテンポが緩やかな場面に移り、フルートやピッコロの民謡風の旋律が可愛らしく踊ります。ハープに弦楽器のピチカートを巧みに絡ませるなど、管弦楽の扱いに芸の細かさが感じられます。初演でもこの楽章は特に評判が良かったとのことです。

第3楽章 Andante
シューマン風の内向的で感傷的な緩徐楽章。ホルンのハーモニーから始まり、穏やかでロマンティックな舟歌風の旋律が流れます。クラリネットソロから弦楽器へと音楽が引き継がれ、やがてトランペットとトロンボーンの印象的なコラールが2度現れます。中間部の木管とホルンの旋律は哀愁と美しさが入り混じる曲中の白眉で、ロシアの黄金の風が感じられます。最後はハープのアルペジオに乗って、揺らめく水の様にそっと終わりを告げます。

第4楽章 Allegro maestoso - Animato
ロンドソナタ形式の輝かしい終楽章。冒頭から総奏でにぎやかに始まり、祝祭的な雰囲気に包まれます。この楽章で打楽器がさらに加わり、盛り上がりを増していきます。民族舞曲風の旋律やリズムがロシアの祭りを彷彿とさせ、低音楽器の勇ましい旋律が轟くと、音響は最高潮に高まり終結へと導きます。第1楽章と第4楽章はどちらもB♭(シ♭の音)の強奏で締めくくられ、曲全体のまとまりが秀逸であるといえます。

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